犬の問題行動とは

犬の問題行動(behavior problem)とは何でしょうか?ヴォイスとマーダーの定義によると、「飼い主が容認できない行動」あるいは、「動物自身に有害な行動」のいずれかに該当するものとあります。このヴォイスとマーダーの定義に従えば、飼っている犬にそのような行動があることによって飼い主が、「問題だ」「困っている」「他人に迷惑がかかるのでどうにかしたい」「治したい」などと感じた時点で、それは問題行動になります。

犬の問題行動には様々なものがあります。「飼い主に唸ったり咬んだりする」「来客や配達が家に来るたび激しく吠えていつまでも吠え止まない」「留守番ができない」「トイレが覚えられずトイレ以外の場所で排泄する」「雷や花火の音を怖がる」「他の犬に向かって吠えたり飛び掛かろうとする」「自分の身体を異常に舐めたり咬んだりするのを繰り返す」など犬の問題行動には様々な性質・態様のものが存在し悩みを抱える飼い主は数多くいます。

犬の問題行動の重要な側面として、「飼い主に与える精神的苦痛」「近隣社会への悪影響」「動物福祉」の問題があります。犬の問題行動にも軽度のものから、現状のままでは飼い続ける事が困難なほど深刻なものまであります。犬の攻撃性のように危険の大きい問題行動や吠え声の問題などは、場合によっては、近隣への迷惑や脅威となり、同じ地域社会に暮らす人々の生活の質や人間関係を損なう原因となる深刻な問題行動であり、解決できない場合には、飼い主は犬を飼い続けることを断念せざる得ない状況に追い込まれることも珍しくありません。

では何故、犬の問題行動は起こるのでしょうか?問題行動の要因として挙げられるのは、遺伝的要因(生得的因子)と環境的要因(習得的因子)の大きく分けて二つが挙げられます。遺伝的要因とは、遺伝あるいは胎生期環境(母犬の栄養状態や精神状態)による先天的な疾患や気質上の問題の事で、いかなる環境を与えてもほとんど左右されることなく発達する行動もあり、犬の場合一般的に怯えやすい傾向は、その典型的な例です。環境的要因とは、母性行動の不足,社会化や馴化の不足,不適切な飼養管理,体罰など痛みや恐怖を与える誤ったトレーニング、犬と飼い主の関係構築の不備が含まれます。

犬の行動は、遺伝と生後の環境が互いに作用しあい影響を与えるため、遺伝的な要因の影響だけで発達するものでも、環境からの影響のみによって発達するものではなく、遺伝と環境双方からの要因が干渉しあうなかで発達するものなのです。犬は親から受け継いだ遺伝と、生後の環境のふたつの要素から作り上げられ、良い遺伝をもって生まれても、生後の環境がよくなければ、その良さは失われ、反対にいくら良い環境で注意深く育てても、生まれ持った遺伝の影響を消し去ることはできません。


犬に見られる主な問題行動

攻撃行動

攻撃行動

犬の攻撃行動は深刻な問題に発展することが多く、攻撃の対象が人間に及んだ場合その被害は大きく犬の問題行動の中で最も多い相談が攻撃行動です。特に大型犬の場合、咬まれれた場合の危険は大きく、中型犬や小型犬でも攻撃行動が激しい場合や頻繁に起こる場合には深刻な問題となり、結果的に犬を手放したり、安楽死を選択せざるを得ないケースに発展する可能性が最も高い問題行動の一つです。

 

分離不安症

分離不安症

分離不安症は、不安障害の一つであり、犬だけでなく飼い主にとっても深刻な問題行動です。分離不安症の犬は、飼い主の不在時に過剰な不安を感じ、破壊行動・不適切な排泄・自傷行動などを起こし、その治療には長期の行動療法を要します。そのため、分離不安症の犬を飼い続けることは飼い主にとっても苦痛となり、犬と飼い主両方の生活の質を悪化させることになります。分離不安症は依存心の強い犬に起こりやすく、分離不安の原因として、子犬期の経験、ライフスタイルの変化、飼い主との過度な愛着など様々な要因が挙げられます。分離不安症の治療は行動療法を用い行動療法の補助として薬物療法を併用する事もあります。

過剰咆哮

過剰咆哮

犬が日常遭遇する刺激に対し頻繁に吠えたり長時間吠え続けることを「無駄吠え」と表現されることがありますが、犬が吠えるのにはその背景や動機があり「無駄」に吠えているわけではありません。吠えることは犬にとって重要なコミュニケーション手段の一つです。しかし過剰な犬の吠え声は、攻撃性と並び、地域社会において問題視される犬の問題行動の一つに挙げられます。

 

 

恐怖症

恐怖症

恐怖症とは、単に強い恐れを示すのではなく、ある特定の状況や対象に過度な恐怖を感じ、不必要な極度の恐れの反応が引き起こされるようになっている状態の事です。(条件性情動反応)症状には、大きく分けると行動的反応と生理学的反応があります。行動的な主な反応として、眼を大きく見開く、吠える、多動、破壊行動、自分の身体の一部を舐め続けるなどがあり、生理学的反応としては、震える、失禁する、心拍数が著しく増加する、パンティング、流延などが挙げられます。音恐怖症の犬では突然の雷や花火など大きな音でパニックを起こし、脱走してしまうケースも少なくありません。雷恐怖症に代表される音恐怖症の確立された治療法として系統的脱感作が有効であることが実証されています。

排泄行動

排泄行動

排泄に関する問題行動とは、犬が決められた以外の場所で排尿または排便をして、飼い主がそれを容認できないことを指します。不適切な排泄行動の原因は複数あり、今まで決まった場所で排泄していたのに突然違た場所にするようになった場合など分離不安などの心理的な原因の場合もありますが、排泄に関する問題行動の場合、第一に身体疾患の可能性を疑い獣医師の診察を受け排泄に関わる疾患がないかどうかを確かめることが大切になります。

異常行動

異常行動

犬の強迫神経症とは、日常生活に影響を及ぼすほど、何かに取り付かれたかのように同じ行動を繰り返すことを言います。反復される行動は常同行動と呼ばれ、さらに自分の意思では止められなくなってしまった場合は強制行動とも呼ばれます。このような異常行動の例として、同じ場所を行ったり来たりするや、脚や体の一部を舐め続ける(自傷行為)、自分の尾を追いくるくると回り続ける、訳もなくずっと吠え続ける、影や光を延々と追いかける、何かの表面を延々と舐め続けるなどがあります。すべての行為をするわけではありませんが、同じ行動(常同行動)を無意識に繰り返し行い続けることで、その行動をやめられなくなってしまう(強迫行動)状態に陥ってしまうのです。



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